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新潟地方裁判所 昭和41年(ワ)674号 判決 1969年10月31日

原告 佐藤四郎

右訴訟代理人弁護士 小出良政

被告 堀江伊一

右訴訟代理人弁護士 松井誠

主文

一、被告は原告に対し、農地法三条所定の県知事の許可あることを条件として、別紙目録記載の土地につき売買を原因とする所有権移転登記手続をし、且つ右土地を引渡せ。

一、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め次のとおり述べた。

(請求原因)

(一)  被告は別紙目録記載の土地(以下本件土地という)の所有者であるが、昭和四一年九月二四日訴外大岩文雄に対し農地法三条所定の県知事の許可(以下単に三条許可という)を条件に右土地を売渡し、且つ同人が右買主の地位を他に転売することを承諾した。

(二)  訴外大岩は右買主の地位を同年九月三〇日訴外長谷川仙造へ、同人は同年一〇月一五日原告へと順次譲渡した。

(三)  原告は右買主の地位を取得した後の同年一〇月二一日頃被告に対し本件土地所有権を売買により直接原告に移転し且つその旨の三条許可申請をするよう求めたところ、被告はこれを承諾し、翌二二日原・被告は連名で巻町農業委員会に右許可の申請書を提出した。

よって原告は被告に対し三条許可がされることを条件に本件土地につき所有権移転登記手続をするよう求める。

(四)  なお本件土地は被告が占有しているので右許可を条件に本件土地を原告に引渡すよう求める。

(被告の抗弁に対する認否)

被告主張事実のうち、(一)は認め、(二)は不知、(三)は認める。

(再抗弁)

(一)  被告の保佐人はその妻堀江タカである。

(二)  タカは、被告と訴外大岩間の売買契約の立会人として契約書に署名押印し、また被告と原告間の所有権移転および三条許可申請につき保佐人として同意書に押印している。

(三)  仮に真実タカの同意がなかったとしても、被告は原告が訴外大岩を介して被告にタカの同意を得て欲しい旨申入れたところ、タカの押印ある同意書を訴外大岩を介して原告に交付し真実タカの同意を得た如く装いその旨訴外大岩および原告を誤信させたのであるから取消権を行使できない。

二、被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め次のとおり述べた。

(請求原因に対する認否)

原告主張事実(一)のうち、転売条項は否認、その余は認める。

同(二)は不知。

同(三)のうち原告主張のような三条許可申請書が巻町農業委員会に提出されていることは認め、その余は争う。

同(四)は認める。

(抗弁)

(一)  被告は準禁治産者であるから不動産処分はできない。

(二)  よって訴外大岩に対し昭和四一年一一月二四日同人との本件土地売買について取消の意思表示をした。

(三)  また原告の主張する原・被告間の本件土地所有権移転の合意についても昭和四四年九月三日原告に対し取消の意思表示をした。

(再抗弁に対する認否)

原告主張事実のうち、(一)は認め、(二)は否認する。(三)について被告はタカに対し本件土地を売却することは秘密にし単に借金のためと偽って同意書に同人の印を押すことについての承諾を得たのであるが、訴外大岩はその場に居合わせ右の事情を熟知しているから同人および原告に主張のような誤信はない。

三、証拠関係≪省略≫

理由

一、被告がその所有の本件土地につき昭和四一年九月二四日訴外大岩との間で三条許可を条件とする売買契約を締結したことは当事者間に争いがない。

そして≪証拠省略≫によれば被告は右契約において訴外大岩が買主の権利を他に譲渡することを承諾した事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

二、その後右買主の権利が原告主張のとおり順次譲渡されたことは、≪証拠省略≫によってこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

三、次に昭和四一年一〇月二二日本件土地につき原・被告間の売買を理由とする原・被告連名の三条許可申請書が巻町農業委員会に提出されたことは当事者間に争いがなく、この事実と≪証拠省略≫を綜合すれば、原告は昭和四一年一〇月一五日に前記買主の権利を取得した後ほどなく、他より被告が準禁治産者であることを聞知し、前記被告・訴外大岩間の売買契約では判然としてなかった保佐人の同意を明確にし自己の本件土地所有権取得を確実ならしめるため、訴外大岩を介して被告に対し改めて、「被告が本件土地について原告と売買契約をし且つ所有権移転登記手続をすることを、保佐人のタカは同意する。」趣旨の記載をした書面何通かを被告に交付し右書面のタカの名下に同人の押印を貰らうよう求めたところ、被告は真実タカの承諾を得たかどうかは別として自から右書面のタカの名下に同人の印を押捺し、これを訴外大岩を介して原告に交付したことこの書面のうちの一通が前掲甲第六号証であること、その結果前記争いのない原・被告連名の三条許可申請書が巻町農業委員会に提出されたこと、以上の事実を認めることができる。

被告はその本人尋問において、被告が前記書面にタカの印を押捺したとき原告の氏名の記載はなかった、従って被告は原告との間で売買による所有権移転の合意をしたことはない旨供述しているが、然し甲第六号証は前記文言を記載した文書をリコピーに複写したものでこれに被告がタカの印を押捺したことは右書証を一見して明らかなことであり、被告が右の押印をしてこれを原告に訴外大岩を介して交付したことよりすれば、被告は右に記載された原・被告間の売買による所有権移転を承認したものとみるのが相当であり、これに反する被告の前記供述はとうてい措信できず、他に以上の認定を動かすに足りる証拠はない。

四、次に被告が準禁治産者でありそれを理由に主張のような取消の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

然し被告は前項認定の如く甲第六号証のタカ作成名義の同意書に自からタカの印を押捺したのであるから、仮に被告が真実タカの承諾を得ずに右押印をしたというなら、被告は右同意書を偽造したことになり、訴外大岩あるいは原告が右事実を知っていたと認めるに足りる証拠はないから(右知情の点に関する被告本人尋問の結果は措信し得ない)、被告は民法二〇条にいう詐術を用いたことになる。

従って被告はタカの同意の有無に係らずタカ名義の同意書が真正に作成されタカの同意があったと信じている原告に対し両者間でなされた三条許可を条件とする売買について取消権を行使できない(被告・訴外大岩間の売買契約についてタカの同意があったかどうかは、被告が原・被告間の売買による所有権移転について同意の欠缺による取消を主張し得ない以上、原・被告間の権利関係についてはもはや影響がなく判断の必要はない)。

五、以上のとおりで、被告は原告に対し前記申請済みの三条許可がなされたときは本件土地について所有権移転登記手続をなし、且つ当事者間において現在被告が占有していることに争いがない本件土地を原告に引渡すべき義務がある。

そして被告は右三条許可を条件とする義務の存在そのものを争っており条件成就の際に被告の即時任意履行を期待することは困難であるから原告において予め右義務の履行を請求する必要があるといえる。

六、よって原告の請求を認容し、訴訟費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井野場秀臣)

<以下省略>

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